岡山地方裁判所 昭和63年(ワ)94号 判決 1991年8月30日
原告
光岡つる子
ほか一名
被告
古市敏枝
主文
一 被告は原告らに対し、各金五八九万一二二円及びこれに対する昭和六一年三月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを七分し、その四を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告らの請求
被告は原告らに対し、各金一〇五〇万円及びこれに対する昭和六一年三月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え(一部請求)。
第二事案の概要
本件は、交通事故により死亡した原動機付自転車の搭乗者の相続人らが、民法七〇九条に基づき損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実
1 原告光岡つる子は、訴外亡光岡隆司(以下「亡隆司」という。)の実母であり、原告光岡孝一は、亡隆司の養父である。
2 交通事故の発生
(一) 日時 昭和六一年三月一二日午前八時一九分ころ
(二) 場所 岡山市浦安西町二一―一一先市道上
(三) 態様 亡隆司が原動機付自転車(以下「亡隆司車」という。)を運転して幅員約六メートルで中央線のある市道の左側車線を走行していたところ、被告の運転する軽四輪貨物自動車(以下「被告車」という。)が幅員約二メートルの南方からT字型に交差した道路から右市道に進入して西進しようとしたため、亡隆司は、被告車との追突を避けるために急ブレーキをかけたことからバランスを失い、中央線を越えて対向車線を走行し、折から対向車線を東進していた坂本美沙緒の運転する普通貨物自動車(以下「坂本車」という。)と正面衝突し、その結果、亡隆司は頭頂部打撲、挫裂創、脳幹損傷等の傷害を受け、事故当日の午後零時二七分に死亡した。
二 争点
被告の過失の有無、過失相殺、損害額。
第三争点に対する判断
一 被告の過失の有無、過失相殺
本件事故現場は、ほぼ東西に伸びた幅員約六メートルの直線で平坦な市道であり、中央線が引かれている。本件事故現場付近の制限速度は、時速四〇キロメートルである。また、本件事故現場付近は、右市道の南側に四軒位の住民が使用している幅員の狭い私道と右市道とがT字型に交差した交差点となつている。右交差点の南東角は喫茶店の駐車場となつており、その駐車場は南北幅約一〇メートル、東西幅十数メートルであつて、本件事故当時、右駐車場には視界を妨げるものはなかつた。右駐車場の東側には右市道に接して民家がある。被告は、本件事故当時、被告車を運転して右私道を北進し、右交差点を左折して右市道を西進しようとして、同車の前部から右市道の南端に引かれている白線の付近に達した位置で車体前部をやや西方向に振つて一旦停止した。そして、右市道の左右を確認したところ、右市道の東約七五メートル先の南側車線上を西進して来る普通自動車と亡隆司車を見つけた。その際、右普通自動車は南側車線の道路端寄りを進行しており、亡隆司車は、右普通自動車の右前部付近で中央線のすぐ南側を進行していた。被告は、右状況を見て、自分が先に左折することが可能であると判断し、左折を開始した。被告車は、左折を開始して四秒程度で左折を完了したが、そのころ、亡隆司車が被告車の後部に接近し、追突しそうになつたため、亡隆司は、被告車を避けようとして、中央線の南側約一・二メートルの地点で急ブレーキをかけるとともにハンドルを右に切つたところ、バランスを失つて対向車線に突つ込み、折から対向車線を東進していた坂本車と正面衝突した。本件事故の際、亡隆司はヘルメツトをかぶつていなかつた。被告が前記のとおり一旦停止した地点からは、右市道の東側約二〇〇メートル先まで見通すことができる(甲一、三の1ないし4、乙一、証人水田次郎、同坂本美沙緒、被告本人、弁論の全趣旨)。
右認定事実によれば、本件事故当時、亡隆司車は、約七五メートルの距離を四秒程度で通過していることになるから、同車は時速六五キロメートル程度で本件事故現場に接近していたものと解されるところ、本件事故は、被告が、市道の手前で一旦停止して左右を確認し、亡隆司車が接近して来るのを認めたものの、亡隆司車の右速度に対する判断を誤り、自己が先に左折進行できるものと判断して右市道に進入して左折進行したため、被告車に追いついた亡隆司車が、被告車に追突するのを避けるための措置を採つたことによつてバランスを失い、対向車と正面衝突したものであるといわなければならない。ところで、本件事故当時、亡隆司が進行していた市道の幅員は、被告が進行して来た私道の幅員よりも明らかに広いのであるから、被告車は市道上の車両の進行を妨げてはならない義務がある(道路交通法三六条二項)うえ、右市道は見通しの良い直線道路であることから、右市道に進入する際には、右市道を通過する車両が制限速度をある程度超過して走行する場合があることも予期すべきであり、右に判示した亡隆司車の速度は、その予期すべき範囲内のものであつたと解される。そうすると、被告は本件事故発生について過失があり、民法七〇九条の損害賠償義務があるといわなければならない。
さらに、右に認定判示した各車両の進行状況、道路状況、亡隆司がヘルメツトをかぶつていなかつたこと等を考慮すると、亡隆司と被告との過失割合は、亡隆司が六割、被告が四割と解するのが相当である。
二 損害額
1 亡隆司の逸失利益 一四四五万六一一円
亡隆司は、本件事故当時一七才の独身で、昭和六〇年一〇月一五日から本件事故により死亡するまで、岡山市内にある有限会社川口板金工業所で板金工として働いていた。右勤務中、昭和六〇年一一月分から昭和六一年二月分までの間(昭和六〇年一〇月分と昭和六一年三月分は、いずれも勤務期間が一か月に満たないので除外する。)における一か月平均の給与額は、九万七五〇〇円である(なお、原告らは、亡隆司は賞与を受けることができた旨主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。)。また、亡隆司は六七才まで五〇年間(新ホフマン係数二四・七〇一九)にわたつて就労することができたというべきであり、同人の逸失利益の算定にあたつては、生活費として五〇パーセントを控除すべきである(甲四の1、2、弁論の全趣旨)。そうすると、亡隆司の逸失利益は、一四四五万六一一円(円未満切捨て)となる。
2 亡隆司の慰謝料 一五〇〇万円
右に認定判示した亡隆司の身上等を考慮すると、亡隆司の慰謝料としては一五〇〇万円が相当である。
三 過失相殺
前記一で判示したところによれは、前記二で判示した亡隆司の損害合計二九四五万六一一円から過失相殺として六割を減額するのが相当である。そうすると、過失相殺後の損害額は、一一七八万二四四円(円未満切捨て)となる。
四 以上によれば、原告らの請求は、その相続分に応じて、各五八九万一二二円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和六一年三月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 安原清蔵)